「占いに関心はありません」。そう言い放つ私に「暦は占いとは違う。禍福の傾向を理解して行動するためのもの」と社長は言った。
転職で一部上場企業の創業者の秘書になった私は多忙を極める社長を尊敬していたが、理解不能だったのは「暦」を判断材料にする癖だ。社員は心得たもので、支社の移転申請なら最適な時期や方角を踏まえて稟議書を出してきた。これは理解できる。問題は些細な行事にまで「暦」を持ち出すことだった。人間ドック受診の時間を捻出して却下されたときは引き下がれなかった。社長も「敢えて悪い日にする必要はない」と譲らない。そこで発したのが冒頭の言葉。苛立つ私に社長は「あなたも社長になれば分かる」と続けた。
13年間秘書を勤め、私は独立した。会社設立日は「暦」で決めた。重要な仕事が入るとそっと「暦」を見る。今は会長の元上司に「人間ドックの日程を暦で決める自分に驚いてます」と報告したらニヤッとされた。
審査員コメント
最初は半信半疑だったと思いますが、目上の方からいわれたとはいえ、暦を活用頂いていることをとても嬉しく思います。
元上司の方と解り合えた様子が目に浮かび、感動し、この賞に選ばさせて頂きました。
今後は部下や後輩に暦を伝えて頂ければ幸いです。ともやま様の更なる発展を祈念致します。